エピローグ

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 電車が入って来て、フワッと生温い風が舞い上がった。単語帳を持ったまま、電車に乗り込む。  待ち合わせの駅へと向かう。普段利用している学校の最寄り駅の3つ先の駅だ。  その駅に向かう理由は一つ。その駅で別の路線へと乗り換えて、美術館を訪れるためだ。  絵に対するトラウマがなくなった私は、2月の終わりに美術部へと戻った。  一方的に休部したにも関わらず、真紀ちゃんは私を見て目を見開いた後「おかえり」と口角を上げ、聡美は「一ノ瀬先輩っ。遅いですよ。先輩がいない間、みんなめちゃくちゃテンション低かったんですからね!」と相変わらずの甲高い声で私を迎え入れた。  及川先生は休部届を出したことに対しても、取り下げることに対しても、何も追及しなかった。 「ご迷惑をおかけしました」と頭を下げた私に対して、ただ一言「迷惑も何も、あなたにとっては必要な時間だったんでしょう。大切なもののために費やした時間には、決して無駄にはなりませんよ」と微笑んでいた。
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