事件

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「一ノ瀬、少し冷静になって考えなさい。ここまで仕上げるのに何日かかった? 今からやり直すなんて間に合うわけがないだろう。ほら、佐倉も何とか言ってくれ」  お手上げという状態で坂本先生が陽に話を振る。  分かっている。誰から見ても無謀で、無計画な自分勝手な意見だと。  坂本先生の言っていることの方が当然理にかなっている。陽だってきっとそう思っているはずだ。 「正直……普通に考えたらできんと思います」  隣で彼が息を吸い込む音が聞こえる。怖くなってギュッと目を瞑った。 「けど、やってみな分からん。可能性はゼロやない……とも思います」  固く閉じた瞼を開けると、隣で陽が小さく微笑んだ。  その様子を見て、坂本先生が盛大に溜め息を漏らす。 「お前までそんなこと言って……やってみないと分からないなんて大口叩いて、できなかったらどうするんだ」 「その時は中止で構いません。ただ、このまま諦めたくなんかない。突然こんなことになってショックを受けている俺らに……犯人は分からない、学校側は見つけるつもりもない、おまけにパネル審査も展示も中止って、このまま泣き寝入りしろって言うとるんですか?」 「……」 「ここまで頑張ってやってきたのに、それを一方的に中止にされるなんて……一ノ瀬さんはもちろん、俺も納得できへんし、クラスの奴らもきっと納得せんと思う。 時間をください。まだ1週間はある。中止の判断を待ってください、お願いします」  陽が深々と頭を下げる。私も一緒になって頭を下げた。 「お願いします」  答えはなかなか返ってこない。一度会議で決定した内容だ。覆すのは無理なのだろうか。諦めなきゃいけないのだろうか――。
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