事件

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*  噂というのはあっという間に広がるものらしい。  昼休みに職員室で私と陽が起こした騒動は、放課後には大半の生徒に知れ渡っていた。それもかなり飛躍してだ。 「ねえ、聞いた? 3組の一ノ瀬、職員室で先生たちに喧嘩売ったらしいよ」 「まじか」 「実行委員の佐倉も一緒に巻き込んだって」  数時間前まで私のことを哀れんでいた生徒たちは、今度は私を見て後ろ指を指すようになった。  でも正直今は気にしていても仕方がない。そう言い聞かせて、長く続く廊下を大股で突き進む。  体育館に足を踏み入れると、居心地の悪い嫌な空気が私を包み込んだ。  重ねられたベニヤ板を1枚1枚ブルーシートの上に出していく。今朝間の当たりにしているはずなのに、写真でも何度も見ているのに、直接見ると心臓を鷲掴みにされているみたいだ。 「……ひどいな、これ」  誰かが後ろでそう呟いた。  作業場にはクラスメイトのほとんどが足を運んでくれていた。陽も蘭も、今日は実行委員の仕事を他クラスの委員に頼み込んでこちらに来てくれた。 「仕上がっていない部分はとりあえず後回しにして、まずは、落書きの処理からしていこうと思います」  作業場の空気は昨日までとは全く違う、気まずさと沈黙に包まれていた。息が吸いにくくて、穏やかさなんて微塵もない。  私の指示に頷いたクラスメイトの表情もどんよりと曇って見えた。
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