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「武田、ちょっと落ち着けって」
駆けつけた陽が間に割って入る。
「落ち着けって、お前らのほうが冷静に考えろよ。35人が1時間かけてやっとこれだぞ? こんなの絶対に体育祭に間に合わねえだろ」
「そうやけど……」
陽が口を開いたが、その先に続く言葉は出てこない。その様子を見て武田が鼻で笑った。
「正直、俺はもうパネルとかあってもなくてもどうでもいい。やりたいならお前らだけでやれよ」
去っていく彼を呼び止める言葉が見つからなかった。黙り込んで俯く私の近くに、再び気配を感じて顔を上げる。
「悪いけど、俺らも降りるわ」
目の前に数人が立ちはだかる。
「え……? 待ってよ」
表情を崩さないようにしようとした顔は、反ってひどく引き攣ってしまった。
「正直……きついわ。できることがあったら手伝おうって思って来たけど、なぁ?」
「一ノ瀬は、見ただけで直し方が分かるのかもしれないけど、俺らには何していいかさっぱりだし」
「だったら、聞いてくれたらいいじゃない」
分からないなら聞いてくれたらいい。そうしたらいくらでも教える。指示も出すのに。
悔しさを堪えて掌を握り締める。
誰の口からか溜め息が漏れる。
「あれやって、これやってって、一ノ瀬さんは簡単そうに言うけど、そんなの口々に言われても普通の人はできないんだって」
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