事件

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「簡単そうになんて、そんな風に言ってない……っ」  声が震える。  簡単だなんて思っていない。そう見せる余裕なんてない。だから私も必死にやっているのに――。 「いや言ってるじゃん」  苛立ちと共に強い口調で言葉が返ってくる。 「ちょい待って。みんな一旦落ち着こうや。凛ちゃんに当たってもしゃーないやろ?」  陽が堪えきれない様子で口を挟んだ。けれど、彼らは言葉を続ける。 「でもさ、元はと言えば一ノ瀬さんのせいなんじゃない?」 「私の……せい?」  彼らが顔を見合わせる。ぎこちない笑みを浮かべて。その表情は呆れているようにも見えた。 「言わないだけでみんなきっと思ってるよ。悪戯されたのはうちのクラスだけでしょ? 責任者が何か恨まれるようなことしたんじゃないかって」  他のクラスメイトは誰も何も言い返さない。聞こえているはずなのに、聞こえないふりをして目を反らす。 「何言うとんねん。そんなんおかしいわ。悪戯した犯人が悪いんやろ? なんで凛ちゃんが悪いみたいになっとるん」  沈黙の中、陽だけが必死で訴える。 「だって、一ノ瀬さん元々良い噂聞かないし」 「陽は来たばっかりだから分からねえんだよ」 「だよな。正直、俺らも……」 「お前ら、いい加減にせぇや」  聞いたことのない低い声が響く。  隣で陽が怒りで震えているのが分かった。
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