事件

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「陽、いいから」  陽を見上げて、首を左右に振る。 「ほらね、やっぱり。すぐ一ノ瀬の肩持つ」 「は? やっぱりって何なん?」 「仲良しの一ノ瀬だから、そうやって庇うんだろ?」 「庇ってへんわ。お前らの言ってることが明らかにおかしいからやろ」  エスカレートしていく言い合いに、息が苦しくなる。  ――止めなきゃ。 「いや別の奴だったらそんなに言ってないね」 「お気に入りの一ノ瀬さんだもんな?」  止めなきゃ。  「実行委員が私情挟むなよ」  早く止めなきゃ――。  言い返そうとした陽の腕を必死で掴む。 「陽。もういい。もういいから!……やめて」  反論しても事態を悪くするだけだ。これ以上私を庇ったら、ここで手を出したら、陽が悪者になる。  もう貶してほしくない。陽は関係ない。嫌われるのは私一人で十分だ。 「いい子ぶってんじゃねえよ。まるで俺らだけが悪者みたいじゃん」  そんな捨て台詞を残して、彼らも武田の後を追って体育館を出て行く。  体育館の屋根を雨粒が激しく叩く音だけが響き渡る。  床に散らばった道具を拾い上げる。  ――バラバラだ。  順調だと思っていた日常の何もかもが、バラバラになってしまった。
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