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「一ノ瀬さん? ど、どうかしたの?」
授業を中断した先生が困惑したように私に声を掛ける。
「……保健室! 保健室に行ってきます」
そう言って教室を飛び出した。
階段を全力で駆け下り、人気のない廊下を走り抜ける。保健室に行くなんて真っ赤な嘘で、息を切らしながら辿り着いたのは反対方向の体育館だった。
幸い今の時間は誰も使用していなかった。静かな館内に私の足音だけが響き渡る。
ステージ横の扉を開け、中へと足を踏み入れた。
昨日の事件を受け、今まで使用していた外の倉庫ではなく、ステージ横の倉庫の一角をパネルの保管場所として使用することになった。一応鍵のついた体育館内を保管場所にすることで施錠後は無断で立ち入りができないように、と学校側は考えたみたいだ。
でも、今みたいに日中の体育館を使用していない時間帯であれば誰でも簡単に侵入できる。対策しているアピールで、管理の仕方が甘いなとつくづく感じるが――でも今の私には好都合だった。
右手に持っていたスケッチブックを投げ捨てるように床に置くと、重ねられたベニヤ板の中からクラスの物を見つけて引っ張り出した。
手に取った板の表面は青く塗られていたが、その下から黒色のペンキが薄っすらと顔を覗かせている。
昨日の作業で塗り直した部分だ。
みんながわざわざ時間を割いて協力して塗ってくれたパネルの表面を優しく指で撫でる。そして――
「……ごめん」
ポケットに忍ばせていたカッターナイフを取り出すと、息を吸い込んでゆっくりとベニヤ板に押し当てた。
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