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「やめないよ」
負けじと震える声で言い返す。
陽が顔を歪ませる。
「なんで? みんなに嫌なこと言われて、体調不良って嘘ついて授業抜け出して……夜も寝不足になるくらい、こんなに追い詰められるくらいパネルのこと考えて……もうこれ以上よう見てられんわ」
「……」
「なんでそこまで拘るん? もうやめてもええやん。やめたって、みんな分かってくれる」
重ねられた陽の手から力が抜ける。
「本当にね……馬鹿みたいだよね」
床に置いてあったスケッチブックを拾い上げて、鉛筆を握る。
「パネル責任者になった日から、放課後も土日も……学校にいるときも家に帰ってからもずっと、パネルのことばかり考えてた」
ポツリと呟きながら、真っ新なページの上に鉛筆を走らせる。
陽は何も言わない。
「……みんなの期待に応えないといけない。もっと良いものを作らなきゃいけない。絶対にクラスにも団にも恥ずかしくない出来のものに仕上げないと、ってプレッシャーから早く解放されたくて仕方なかった」
「やったら、もう……」
地面に置かれたベニヤ板に目を落とす。
「でもね、いつの間にか変わってたの」
「え?」
「最初はただの責任感だけだった。向きもしない責任者で、作業の時間が苦痛だった。……あんなに早く終わってほしかったはずなのに、でも、いつの間にか終わってほしくないって思うようになってたの。こんなの柄じゃないけど……みんなでする作業が楽しかったんだと思う」
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