エピローグ

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 美術部への復帰後、新たに作品を仕上げた。せっかくだからと美術展に応募したのが5月初め。そして、その結果が出たのがひと月前のことだ。  人生で2度目の賞状を受け取ってようやく実感が湧いた。約10年前の「市長賞」に比べると今回の「入選」はそこまで大きなものではない。ただ、生まれて初めて、自分から努力して得たものだった。  でも、結果を喜ぶ気持ちよりも、その絵を見てもらいたいという気持ちのほうが大きかったことに自分でも驚いた。  今までは自分が楽しんで描ければそれで十分だと思っていたのに、作品を見てもらいたいという欲がまさか自分からも湧いて出てくるなんて。  電車が止まる。早口で流れるアナウンスを聞いて下車する。   7月25日金曜日。  今日から美術館で新たな展覧会が始まる。展示室のその一角に私の作品も展示されることになっていた。  多くの人に私の絵を見てもらいたいなんて思ってはいない。でも、たった一人、どうしても一緒に見てもらいたい人がいた。  人混みでごった返すホームの中で、血眼になってその人を捜し回る。連絡したほうが早いだろうかと立ち止まり、額に滲む汗を拭う。 「凛ちゃん」  後ろから聞こえた愛おしい声にゆっくりと振り返った。  陽が私に笑いかける。  私の世界を彩る、とびっきりの太陽みたいなあの笑顔で。                        【END】
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