一波乱

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 体育館の中に入ったとき、妙な違和感を感じた。何が変なのかはっきりと断定できないけれど、昨日までとは何かが違う気がしたのだ。  その違和感の正体に気付くまでにさほど時間はかからなかった。 「あれ、武田は?」 「部活行くって」 「えーマジかよ」  近くにいたクラスメイトの会話に耳を澄ます。  部活――そうだ。部活生は練習もあるだろうし、さすがに毎日こちらには来れない。そうなれば今日の参加人数は予想していたより少なくなるのかもしれない。  集まっているクラスメイトの方を向いて息を吸い込む。 「今日のパネルの作業を始めます。今日から着色に入るから、まずは、ビニールシートの上にパネルを……」 「あれ、今日、陽くんは?」  指示を出している途中で、誰かが口を挟んだ。いつも隣にいるはずの陽がいないのを不思議に思ったらしい。 「あ、今日は実行委員会で、終わったら来るって」  そう答えると、何人かがあからさまに不満げな顔をしたような気がした。  まずは倉庫に保管してあるベニヤ板を運ぶように指示を出すと、みんなが一斉に動き出す。私も一緒に運搬作業を始める。  途中、数名の女子が作業場所から離れたところに集まっていることに気付いた。何かあったのだろうかと疑問に思い彼女たちに近づく。 「せっかく今日も残ったのに」 「陽くんがいないと意味ないよね」 「どうする? 用事あるって帰っちゃう?」  どうしたの、と出かかっていた声は喉の奥へと消えた。
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