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「よっしゃ、落ちた」
しばらくして満足そうに陽が声を上げたのを聞いて顔を上げる。
目の合った陽は、真顔で頬に触れていた手を動かし、そのまま私の両頬を摘まんだ。
「何、するの」
彼は私の顔を見て、ククッと可笑しそうに笑い声を漏らして両手を離す。
「あまりにも可愛い顔しとるからつい」
「そんなの笑いながら言われても説得力ない」
突き返すように言い放ち顔を反らす。突然頬を引っ張られてびっくりしたけれど、でもそのおかげでだいぶ心拍数が下がってきた。
「凛ちゃんとこうやって話すの、すごい久しぶりな気がする。な?」
陽が手洗い場にもたれ掛かって天を仰ぐ。つられて私も上を見上げた。
本当に久々だ。だからきっとこんなにドキドキしたんだ。
特別な感情とかそういうのではなく、初対面の人に勇気を出して声を掛ける時のような、あの感じ。
頭の中で必死に理論立てながら、流れていく巻雲を眺める。絵に残したいくらい綺麗な青空だった。
「ごめんな」
「え?」
「結局今日も全然手伝えんかったな」
視線を戻すと、申し訳なさそうに陽が顔を歪めていた。
「どうして謝るの? 委員会があるんだから仕方ないでしょ」
「そうなんやけど、責任者に推薦した張本人が全く手伝えてないと思ったら、なんか申し訳なくて」
「平気だよ。もう8割くらい完成しているし、みんなが協力してくれるから……あ」
駐輪場へ向かう真柴さんが数メートル先を通るのが目に入る。手を振ると、彼女もこちらに気付いて小さく右手を振り返してくれた。
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