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事件
順調だったと思う。
一緒に過ごす時間が減っても変わらずに接してくれる陽。力を貸してくれるクラスメイト。
パネルの制作がきっかけでクラスにも馴染めてきた。ひと月前には考えられなかった誰かと会話をすることが当たり前になった。
1週間の始まりの月曜日は、昨日とは打って変わって朝から大雨だった。
「おはよ」
傘を畳みながら空から落ちてくる大きな雨粒を眺めていると、後ろから声を掛けられる。
「陽くん、おはよう。雨すごいね」
先に隣にいた蘭が挨拶を返したので、喉元まで出かけていた「おはよう」の一言を口の中に仕舞い込んだ。
「雨の日も自転車なの?」
「いや、今日はさすがにバスで来たんやけど、でも超満員」
「うわぁ大変そう」
2人の会話に自分から口を挟む気にはなれず、傘を傘立てに置いて先に靴箱へと向かう。靴を履き替えて一歩足を進めた時、「凛ちゃん」と名前を呼ばれた。
「待って。一緒に行こや」
「え? あ、うん」
蘭はどこに行ったのだろう。周りを見渡すと、少し離れたところで他のクラスの友達を見つけて話に花を咲かせていた。待つべきか少し悩んだが、まあいいかと思い足を進める。
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