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体育館の裏を回り、倉庫の前へと辿り着く。入り口には人だかりができていた。途轍もなく嫌な予感がした。
掌を握りしめて、ゴクリと唾を飲み込む。
「ごめん、ちょっと通して」
雨粒で肩を濡らしながら、人混みを掻き分け強引に中へと踏み込んだ。
先頭に立ってようやく視野を遮るものがなくなる。
埃っぽくて薄暗い倉庫の中。いつもと変わらない少し湿っぽい空気。
でも――目に飛び込んできたのは、昨日までとはあまりにも違う光景だった。
数歩引きずるように足を進め、そのまま地面に膝をつく。
「1組の奴らが今朝来た時にはこうなってたって」
「マジかよ」
「酷いよね」
背後でひそひそと小さな声が耳に届く。
地面に無造作に積まれたベニヤ板の表面を撫でる。
みんなで何度も着色を重ねて描いてきたパネルだった。完成間近のはずだった。昨日まで存在したあの彩りは、一体どこへ消えてしまったのだろう。
「誰が、こんなこと……」
陽が隣で声を震わせる。
“誰が”と言った。そう、明らかに故意にやったとしか思えない。
何重にも重なって絵を埋めつくす真っ黒なペンキの跡を指で辿る。乾いているはずなのに、指先からひんやりと体温を奪っていくみたいだった。
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