事件

5/15

1647人が本棚に入れています
本棚に追加
/327ページ
*  昼休みが終わりに差し掛かったときだった。 「生徒の呼び出しをします。2年3組一ノ瀬、2年3組一ノ瀬凛。至急、職員室坂本のところまで来るように」  校内放送で私の名前が連呼される。どうやら先生たちの会議とやらが終わったみたいだ。  持っていた箸を置き、ほとんど中身が減っていないままのお弁当箱の蓋を閉じる。  重い腰を上げようと机に手をついたとき、ガタンッと椅子が動く音がして顔を上げる。先に立ち上がったのは陽だった。 「俺も行く」  強く言い切った彼に対して、力なく頷いた。  一緒に行くという申し出を断らなかった理由の一つは、陽があんなに楽しみにしていた久々の一緒に過ごせる昼休みを、私の上の空で台無しにしてしまったからだ。その上でさらに断ることに申し訳なさがあった。  そしてもう一つは、逃げてしまいそうな自分への自制だったのかもしれない。途中で逃げ出さないように、現実から目を背けないように、一緒に来てもらうことにした。 「おー来たか」  職員室に入ると、坂本先生が私の顔を見て声を上げる。そして隣の陽を目で捉え眉を寄せた。 「佐倉も一緒か」 「まずいですか?」 「んー……いや、いい。お前も実行委員だから聞いておけ。どうせすぐに知れ渡るだろうし」  ボリボリと頭を掻きながら、坂本先生が口を開く。
/327ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1647人が本棚に入れています
本棚に追加