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「憂鬱だ」
「はい?」
急に吐き出された言葉に、律儀に答えてしまう浅田侑平だ。それに、結城礼門は溜め息を吐く。
「あの?」
何事と、侑平は首を傾げた。それに、礼門はあれとカレンダーを指差す。只今8月の中旬。夏休みの真っ最中だ。侑平はあらゆる夏の楽しみを妖怪に阻まれ、寺で大人しく勉強中だった。
その横にいた礼門は大学の仕事をしていたが、溜め息が尽きないご様子。そして、先ほどの一言だった。
「それの提出期限、もうすぐなんですか?」
「君でも察しの悪い日があるんだな」
「ーー」
間違ったことを言ったらしい。しかしカレンダーには何も予定は書かれていない。普通のシンプルなカレンダーだ。
「この時期と言えば?」
「ーーああ、お盆ですか。え?」
だからどうしたと、自分がいる場所を忘れて訊く侑平だ。
「今年は暑いからな」
それに、礼門は仕方ないかと酷い。暑くて頭が回っていないと言われたのだ。気づいた侑平はむっとする。
しかし、お盆。ああ、そうか。先祖の霊が帰って来るというアレだ。ひょっとして、妖怪絡みの事件が増えるのか。
「霊が戻るかどうかはさておき、律儀にその時期になると現れる奴がいてね」
侑平がようやく正しい思考を始めたので、礼門はそう答えた。
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