Episode 1 Tornado Dorothy

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 と思うやいなや、ふわりとダットサン・ハードボディが浮き上がり。重力が際限なくおかしくなるいやな感触を感じさせられる。 「OH MY GOD!」  叫ぶドロシーの胸にトトが飛び込む。というより、落ちてくる。それを咄嗟に抱きしめ。目を閉じた。  もうだめだッ!  短い人生だった。  もっと、もっと、もっと、走りたかったのにッ!  ドロシーは無念さをトトと一緒に抱きしめて、固く目を閉じて。覚悟を決めた。  ――それから長い長い時間が経ったように思えた。  しかし、自分がどうなっているのか、さっぱりわからない。  と、そこへ、  こん、こん、  という、ウィンドウを指で叩くような音がする。  石が当たっているのだろう、と思ったが。 「Hey」  という声もする。  あれ? と思いながら、固く閉ざした目を、おそるおそる開ければ。  左のウィンドウ越しに、誰かが車内を覗いていた。 「AAAAAAAAAAAAAH!」  地獄の獄卒か! と言わんがばかりに、ドロシーは驚きまくって叫びまくって。咄嗟にドアを開けて、車内を覗いていた奴にぶつけてぶったおしてやった。  すると、 「うわー!」  という悲痛な叫びと、どさっという鈍い音とがちゃりという脚立が倒れる音がし。それらが目に入る。 「What?」  ドロシーは開けられたドアから周囲を見渡せば、そこはどこかの街中の広場のようで。たくさんの人が、自分たちを取り囲んでじっとこっちを見ていた。  それにしても、皆背が低く、子供のようだった。 「いてて、ひどいなもう」  ぶったおされた奴が腰をさすりながら脚立を立てる。そいつもまた、背が低く。脚立にのぼって、ハイリフトで車高が高くなったダットサン・ハードボディの中を覗いていたようだった。 「なにこれ?」  ぽかんとするドロシーの脇からトトが顔を出し、「うう~」と警戒の唸りをあげる。  エンジンはいつの間にか止まっていて、うんともすんとも言ってない。  ふと下を見れば、左前のタイヤから、人間の下半身が見える。 「え、なになに、なにこれ。マジわけわかんないんだけど!」  車高が高い愛車から飛び降りるように下車し、身をかがめてそれを見れば。あろうことか、左前のタイヤは人間を下敷きにしているようだった。ぶっといタイヤは人間の腹の上に乗っかり、腰から下がタイヤから覗いている。
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