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と思うやいなや、ふわりとダットサン・ハードボディが浮き上がり。重力が際限なくおかしくなるいやな感触を感じさせられる。
「OH MY GOD!」
叫ぶドロシーの胸にトトが飛び込む。というより、落ちてくる。それを咄嗟に抱きしめ。目を閉じた。
もうだめだッ!
短い人生だった。
もっと、もっと、もっと、走りたかったのにッ!
ドロシーは無念さをトトと一緒に抱きしめて、固く目を閉じて。覚悟を決めた。
――それから長い長い時間が経ったように思えた。
しかし、自分がどうなっているのか、さっぱりわからない。
と、そこへ、
こん、こん、
という、ウィンドウを指で叩くような音がする。
石が当たっているのだろう、と思ったが。
「Hey」
という声もする。
あれ? と思いながら、固く閉ざした目を、おそるおそる開ければ。
左のウィンドウ越しに、誰かが車内を覗いていた。
「AAAAAAAAAAAAAH!」
地獄の獄卒か! と言わんがばかりに、ドロシーは驚きまくって叫びまくって。咄嗟にドアを開けて、車内を覗いていた奴にぶつけてぶったおしてやった。
すると、
「うわー!」
という悲痛な叫びと、どさっという鈍い音とがちゃりという脚立が倒れる音がし。それらが目に入る。
「What?」
ドロシーは開けられたドアから周囲を見渡せば、そこはどこかの街中の広場のようで。たくさんの人が、自分たちを取り囲んでじっとこっちを見ていた。
それにしても、皆背が低く、子供のようだった。
「いてて、ひどいなもう」
ぶったおされた奴が腰をさすりながら脚立を立てる。そいつもまた、背が低く。脚立にのぼって、ハイリフトで車高が高くなったダットサン・ハードボディの中を覗いていたようだった。
「なにこれ?」
ぽかんとするドロシーの脇からトトが顔を出し、「うう~」と警戒の唸りをあげる。
エンジンはいつの間にか止まっていて、うんともすんとも言ってない。
ふと下を見れば、左前のタイヤから、人間の下半身が見える。
「え、なになに、なにこれ。マジわけわかんないんだけど!」
車高が高い愛車から飛び降りるように下車し、身をかがめてそれを見れば。あろうことか、左前のタイヤは人間を下敷きにしているようだった。ぶっといタイヤは人間の腹の上に乗っかり、腰から下がタイヤから覗いている。
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