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これはどう見ても、そうだ、人間を下敷きにしてしまっているのだ。
ドロシーの顔は一気に血の気が引いて、真っ青になり。ドロシーに続いて下車したトトは鼻を近づけ臭いを嗅いでいる。
「気に病むことはない、こいつは東の悪い魔女だ」
さっき車内を覗いていた背の低い奴が、嬉々として言う。
「何言ってんの、あたし人を殺しちゃったのよ、なんでそんなに嬉しそうに言うのよ!」
これでムショ行きと思うと。ぞっとしまくった。
トトは足の臭いを嗅いでいたが、
「くしゅん!」
とくしゃみをしたかと思うと、そっぽを向いた。よほど臭かったようだ。
足はぴくりとも動かない。
「死んだ」
誰かがぽそりとつぶやけば、
「死んだ、死んだぞ、東の悪い魔女が死んだぞ!」
と、大合唱になり。ドロシーは呆気にとられて、身動きできなかった。
「え、いやちょっと、なに、なんなの」
馬鹿な男に拳銃で撃たれそうになったかと思えば、自分の車が竜巻に巻き込まれて吹っ飛ばされたかと思えば。
自分の車は背の低い人ばかりの、知らない街で、誰かを下敷きにして止まっていた。
などと考えを整理するが、理解不能で、ますますパニックになり栗色の髪の頭をかきむしる。
ふと、少し離れたところに、車種不明の、ハイリフトにカスタムされたピックアップトラックがあった。
背の小さな人たちはそれにも群がって、思い思いのままにタイヤやホイールに蹴りを入れていた。
「うう~」
トトが唸る。
自分のダットサン・ハードボディにも負けず劣らずな爆音が轟いたかと思えば。その爆音は上からしていて。
天を仰げば、ドロシーはあまりのことに腰をぬかし。端正なヒップで尻もちをついてしまった。
「バイクが空を飛んでる……」
ハーレーらしき白いクルーザーバイクが、空からゆっくり、ドロシーの前に降りて。白い革ジャンで決めたライダーは、美しい金髪を持つ女で。いかにもなアメリカンバイカーレディーだった。
それがへたり込むドロシーを見つめて、
「うふふ」
と微笑む。
天から金髪のバイカーレディーが降りたかと思うと、背の低い人々は「わあ!」と歓声を上げた。このバイカーレディーは、街の人々に好かれているようだった。
それはかまわない。しかし、なぜ空から降りてくるのだ。
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