1人が本棚に入れています
本棚に追加
その後、先輩とは昇降口前の階段で分かれた。
私たち下級生のクラスは、どちらかといえば低い階にある。
先輩は大変だと、いつも背中を見ながら想う。
私たちが通う学舎(まなびや)の大きさは、街の一角を占めるほどに巨大なものだ。一部は一般人にも開放され、街の一部といっても過言ではないかもしれない。
理由としては、少子化が進んだ影響だとか、土地の有効活用だとか、いろいろな理由はあるようだけれど。
「……今日、移動教室あったなぁ……」
わずかな休憩時間での移動にため息がでるほどの広さであることが、私のとりあえずの問題だった。
そうは想っても、動かなければ始まらない。
自分の教室へと足を向けることにして、しばし歩く。
見慣れた同級生の顔が多くなってきた頃合いで、私は自分の教室の表札を見つける。
「でねでね、あそこであんな展開になるなんて想わなくて……!」
「はぁぁぁ……憂鬱だわ……」
「嘘でしょ、そんなの聞いてないよー!」
廊下で挨拶をかわしながら、扉を開けて教室の中へ入ると。
「おはよう、鈴音」
「おはよう、絵里ちゃん」
人なつっこい笑みで声をかけられる。
話しかけてくれたのは、絵里ちゃんという仲のよい友達だった。
「聞いて聞いて、実は昨日さ――」
絵里ちゃんはいつものように、授業前のとりとめのない談笑を始める。
彼女の話題は、昨日のテレビ、ウェブでの速報、ファッション雑誌の流行、そして周囲の恋事情など――いわゆる、今風の女の子の情報をとりいれるのがとても早い。
ちょっと変わってると言われることが多い私にとって、彼女の話題は新鮮な驚きがあって、聞いていて飽きない。
いつもどおりの、たわいのない、けれど楽しい時間。
――そのまま、予鈴が鳴るまで、いつもどおりの時間を過ごせばよかったのかもしれないけれど。
最初のコメントを投稿しよう!