Part:『I184』

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「ねえ、あの、絵里ちゃん――」  けれど、ふと。  私は、先輩にした質問を、彼女にもしてしまった。 「絵里ちゃんは、夢を見る? それも、悪い夢」 「悪夢? そりゃあ、見るよ」 「例えば、どんな夢?」 「片思いの相手に断られる夢とか、片思いの相手と好きな子があるいている夢とか……!」 「そ、それって、本当の話じゃないよね……?」 「あれは夢よ、そうに違いない! わたしの視界は絶賛、悪夢にとりつかれちゅうなのよ!」  絵里ちゃんの、なかば半泣きに近い話を、私は苦笑しながら聞いていた。  ほがらかで話し上手の絵里ちゃんなのに、なぜか彼氏との縁は薄いらしい。  しかし、それは悪夢とは言わない。説明ができるから。  私が見ている夢は、もっと、日常に近い生々しさがあるのに――日常と呼ぶには、つらすぎる。 「で、どんな悪夢なの?」 「うーん……それが、説明に困るというか……」  そう、説明したいのに、説明できない。だから、みんなに呆れられる理由もわかる。  けれど、言えない。言えるだけの強さが、私にはなかった。  ――親しいみんなを、破壊していく夢だなんて。 「ご、ごめんね。たぶん、部活で疲れちゃってるだけだと想う」 「そう? なら、いいんだけどさ」  絵里ちゃんの顔を見て、私は考え直した。  みんなを不安にさせる夢の話なんて、夢の中だけでいい。だからこそ、悪い夢と呼ばれるのだから。 「うん、ありがとう――」  そう、彼女にお礼を言って。  始業の鐘が鳴る、ほんのちょっと前。  そんな、一瞬のことだった。 「――!」
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