Ⅷ  ハルとアキ

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「おかあさん、どうしたの? もうすぐかえってくる?」 『秋那、秋那はお家に帰ってきてる?!』  おかあさんのこえが、へんだ。いつもとちがう。おこってるのともちょっとちがう。 「アキはおかあさんとかえってくるんでしょ? いないよ」  そういうと、おかあさんはなにもいわなくなってしまった。なんだろう、すごくへんなかんじがする。 『春真は、そのままお家にいてね。お母さん、もう少し遅くなるけど、お父さんにも電話して、早めに帰るようにお願いするから』 「アキ、どうしたの?」 『春真は心配しなくていいから、お願いだから、お家にいてね、また電話するからね!』  でんわがきれた。  アキになにかあったんだ。 「アキ、」  おうちのかぎをおかあさんのひきだしからとって、かぎをしめていえをでた。 「アキ、……アキ!」  アキ、いなくなったんだ、きっとそうだ。  かぎをにぎりしめて、アキがすきなところ、ぜんぶさがしにいこうとおもった。  はしって、はしって、 「アキ、どこにいるの、」  ひとりでこんなじかんに、いえからとおいところに、 「っ、アキ、アキ!」  アキ、どこにいるの? オレからはなれてどっかいなくなっちゃうの?  ゆうまのいえなんてわからない。でも、オレたちはふたごだから、アキのことなら、オレはわかるんだ。 「アキ」  アキとオレがだいすきなばしょ。  ようちえんのうらにある、ひろばのおおきな、きのあなのなか。  ようちえんのバスのまどから、まいにちそとをみていたのを、がんばっておもいだす。  ようちえんにいくには、このまままっすぐいけばだいじょうぶ。そのまま、おおきいおにわのあるおうちのところをまがると、ようちえんにいける。  はしって、とまって、またはしる。あのおうちがみえた。もうすぐようちえんにつく。 「アキー!!!」 「――っ――」  ちいさくだけど、こえがきこえた。アキのこえが。  ようちえんのうらのひろばはくさがたくさんはえてて、すべって、ころんだ。でも、そんなのいいんだ。  おおきなきがみえた。ぜんぶのちからをだして、よんだ。 「アキ!!!」  きのあなのなかには、めになみだをいっぱいにした、アキがいた。 「は、る」 「アキ……アキ、良かった」  からだがからっぽになったみたいに、しゃがみこんだ。アキのからだをギュッとする。
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