Ⅸ  春と秋

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「はい」 「え?」 「どうせあとちょっとだし。ハルは軽いし。乗って」  秋那が俺を背中に担ごうと、促した。 「な、む、無理無理! 俺が軽いって、何言ってんだ! 歩けるし、良いよ!」 「ハルが軽いって、知ってるし。俺力持ちだしー。ハルが乗らないなら、このままここで寝転がって車に轢かれるの待つわ」 「は、はぁ?!」  何言ってるんだ、秋那は。  俺が動けないでいると、秋那は本当に地べたに腰を下ろした。 「わ、分かった分かった! ったく、もう、本当秋那って、強情!」  根負けして、秋那の背中におぶさった。すると、秋那が大声で笑って、勢いよく立ち上がった。  特別な会話もなく、ただ背中に揺られている。単調なリズムは、眠気を誘発して、ウトウトとしてしまう。 「寝てもいーよ」  秋那がそんな俺を察したのか、優しく声を掛けてくれる。  秋那の背中から感じる熱。呼吸音。時々当たる、痛んだ髪の感触と、たくさんついたピアスの冷たさ。 「秋那――何で髪、染めたの?」 「え?」 「アキの髪、好きだったのに」  呆けながら、無意識に呟いていた。無意識過ぎて、自分が何を言ったのかもよく分からなかった。 「ハル?」 「……ピアスも……」  うとうととしながら、ぽつぽつと呟く。半分、夢の中にいるような感覚だった。 「ピアスなんか……アキはつけない……」  暖かい。さっきまで一人で、寒かったはずなのに、気持ち良い――  単調なリズムが、一瞬止まった。止まると、背中一面の暖かさがずっとくっついて、心地よくて。  記憶は、そこで途絶えていた。
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