212人が本棚に入れています
本棚に追加
「はい」
「え?」
「どうせあとちょっとだし。ハルは軽いし。乗って」
秋那が俺を背中に担ごうと、促した。
「な、む、無理無理! 俺が軽いって、何言ってんだ! 歩けるし、良いよ!」
「ハルが軽いって、知ってるし。俺力持ちだしー。ハルが乗らないなら、このままここで寝転がって車に轢かれるの待つわ」
「は、はぁ?!」
何言ってるんだ、秋那は。
俺が動けないでいると、秋那は本当に地べたに腰を下ろした。
「わ、分かった分かった! ったく、もう、本当秋那って、強情!」
根負けして、秋那の背中におぶさった。すると、秋那が大声で笑って、勢いよく立ち上がった。
特別な会話もなく、ただ背中に揺られている。単調なリズムは、眠気を誘発して、ウトウトとしてしまう。
「寝てもいーよ」
秋那がそんな俺を察したのか、優しく声を掛けてくれる。
秋那の背中から感じる熱。呼吸音。時々当たる、痛んだ髪の感触と、たくさんついたピアスの冷たさ。
「秋那――何で髪、染めたの?」
「え?」
「アキの髪、好きだったのに」
呆けながら、無意識に呟いていた。無意識過ぎて、自分が何を言ったのかもよく分からなかった。
「ハル?」
「……ピアスも……」
うとうととしながら、ぽつぽつと呟く。半分、夢の中にいるような感覚だった。
「ピアスなんか……アキはつけない……」
暖かい。さっきまで一人で、寒かったはずなのに、気持ち良い――
単調なリズムが、一瞬止まった。止まると、背中一面の暖かさがずっとくっついて、心地よくて。
記憶は、そこで途絶えていた。
最初のコメントを投稿しよう!