少年、君は

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しかし、その人物に私は覚えがあった。 事件が起こった翌年、一人、島に残された少年の自宅へと健康検診を行いに訪ねようとしたことがある。まだ事件の傷は癒えていない時期だったが、住民の健康を管理するのも医師の役目だと思ったのだ。 住宅地から離れた高台の上、島の人間であれば思い当たる場所は一つに絞られる場所であるために迷いもせず、少年宅へと歩いて向かった。しかしその道の途中、少年宅のある方角から、一台の黒塗りのワゴン車が降りて来るのが見えた。整備されていない山道を、車体を揺らしながら進み、私の真横を通り過ぎた所で停車した。 一人の男が助手席から降りてきた。この島の住人で無ければ、見知った顔でもない。その風格は、この島とはかけ離れたものに思えた。 「この先に何の用だ?」 低く、地を這うような声に背筋に冷や汗が通り、本能的にこの人物と関わってはいけないと、理解した。 「いえ、私はこの島の医師でして、この丘の上に住む少年の健康検診にと訪ねたのです」     
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