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這いずるように体を起こし、額を押しつけるように地面に頭を下ろしている。一歩たりとも立ち入らせはしない、そう告げているかのように店の入り口に立つ主人。私と目が合い、荒んでいた剣幕が冷静さを取り戻していくのがわかった。
少年がこの店を訪れる度に店主に頭を下げるようになったのはあの出来事以来だろう。半年前の話だ。少年がこの店で万引きをした。盗んだのは店前に陳列されていたジャガイモ一つだった。島の子がジャガイモ一つを盗んだとして、所詮子供の過ち。注意程度で済み、次の瞬間には笑い話になる。
島の子、少年も島の子だ。ただ一つ他の子供達との明確な違いは、彼が殺人者の子だと言う事。誰も彼を、空腹で飢えた可哀想な子だと思わない。犯罪者の子は犯罪者という苦いレッテルが貼られ、犯罪者は飢えをもって制裁をと誰も助けようとしなかった。
店主は尚更、彼を許せないだろう。店主の妻、紗江子さんが、あの事件の犠牲者となったからだ。
地面に散らばった小銭を一枚一枚拾い集め始めた。私の足元にもいつのまにか五円玉が一枚転がってきていた。拾い上げ、地面に蹲るようにしゃがんでいる少年の元へと歩み寄る。
「君のだね」
少年に合わせてしゃがみ込み、下げられた目線の先に掌に置いた五円玉を差し出した。小銭を拾う手が止まり、ゆっくりと上げられた顔に思わず息を呑んだ。前頭、頬、下顎に赤紫色の痣があり、たった今出来たであろう擦り傷は、左頬を広く傷つけている。
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