少年、君は

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悪夢は何度も私を襲う。何度も、何度も、目を閉じれば同じ悪夢だ。苦しみ、冷たくなって行く娘の側で、何も出来ずにいる自分。彼等夫婦じゃない、まるで、私の事を呪うように、あの時を繰り返し見せてくる。 これは罪か。愛しい人を守れなかった者への。 産声を上げた地で日常を生き、青春を送り、愛を受け育っていく。この島ではそれが当然であり、代々受け継がれてきた風土だ。私もその例外じゃない。両親、祖父母からの熱い愛の中すくすくと育ち、朗らかな日常を送り、友人達と過ごした青春時代は今でも大切な宝物だ。 身の回りの人間にも恵まれ、子供ながらにまるで家族のような暖かさを感じていた。この島は私の愛する場所だ。娯楽こそ少ないがそれが苦にならない程に、心が満たされた生活がここには存在する。 成人し、幼き頃の恩返しをと、島唯一の医師として島の住人の、時には傷を、時には病を、時には心を診てきた。自他共に認める、立派な医師へと日々成長を重ねている。 二年二ヶ月と少し前、島全体を恐怖に陥れた強盗殺人が起こった。被害は一軒に留まらず、僅か三件にも及んだ。犯人は、この島に住む夫婦だった。そして、殺人を自ら遂行しようとした妻を側で見守り支えたとされる夫は、在ろう事か私のかつての友人だった。同じ学び舎で勉学を共にし、夕暮れ時にはよく数人で集まり他愛ない話にうつつを抜かした記憶が鮮明に思い出される。     
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