少年、君は

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私の知る彼は、とても優しい人間だった。面白い出来事を次々と発案し、皆の中心となっているような人人物だ。人を思い遣り、責任感が強く、何より頼りになった。そんな彼が何故、犯罪の片棒を担ぐ事になったのか、島中の住人は口を揃えて言った。〝あの女に唆されたのだ″、と。 彼は変わってしまった、そう解釈する者が大多数を占めた。島中の人間が認める男だったが為に、誰も〝かつての″彼を疑おうとはしなかった。かく言う私も、それを否定しなかった。それ程に、彼が殺人者となった事は信じ難いものだった。しかし私はこうも思う。もしかすると、彼の知られざる人格だったのかもしれない、と。 十六の頃島を出て本土の高等学校に入学した。その後大学へと進み、国家資格である医師免許を取得した。島へと戻ったのは、実に十年の歳月が流れた頃だった。二十六になった私は大学で知り合った女性と籍を入れ、妻を連れ島へと戻った。島の人々はまるで身内ごとのように喜びを表してくれた。妻も島での生活に徐々に慣れ、この島で生まれ育ったかのように充実した生活を送っていた。 そんな愛する妻が他界した。島へ戻って五年が経った頃の事だ。死因は急性心不全だった。病弱だった訳でもなければ、病を患っていた訳でもない。あまりに突然の事で、私の人生に、ぽっかりと穴が空いた。それは完全に埋めることが叶わない、とても大きな穴だ。     
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