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そんな精神病に侵されそうになった私の心の支えとなったのが、私の愛娘だ。名は春菜。明るく、人を思いやる気持ちは誰に負けることがない程、優しい子だ。私の唯一の支えであり、光だ。
可愛い可愛い春菜。私の最愛の子。棺の中で握った、冷たくなった小さい手を、今でも悪夢であって欲しいと願ってやまない。
彼等夫婦が起こした事件で、島唯一の八百屋の妻、薬屋の祖母、そして私の娘が犠牲になった。あれから二年二ヶ月と少し。もう直ぐ、三ヶ月を経とうとしてる。
朝、住人宅の訪問が私の日課だ。小さい島の中は四駆自動車一台あれば午前中に全て周りきれる程の広さだ。一軒一軒、家の主人と妻に挨拶を交わし、いつものように体調健診を行う。床屋である澤田さん宅を訪ね、縁側で雑談を交えながら健診を行なっていた時、廊下の奥からドタドタと忙しない音が元気に響いた。
「あ、先生だ!おはよう!!」
前歯が二本、すっぽりと抜けた笑顔に口元が自然と綻んだ。澤田さんの一人息子、笑輝君だ。名前の通り、いつも元気な笑顔を輝かせている。
「笑輝くんおはよう。今から学校かい?」
うん!と元気に頷いた笑輝君の背中には手製の給食袋をぶら下げたランドセルが背負われている。島全ての道を繋ぐ一本道は今頃、笑輝君と同じ格好をした小学生達で賑わっている事だろう。澤田さんに挨拶をし、笑輝君と共に玄関を出た。
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