少年、君は

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娘の仇の子、そんな言葉が脳裏を掠めた。自分がこの子をそんな風に思っている事に驚いた。たとえ両親が殺人を犯し娘を殺めたのだとしても、この子にはなんの罪もないと納得し、怒りを鎮めた筈だった。 “息子の為にやった” 夫婦に死刑判決が下った際、母親が終始叫んでいた言葉だった。傍聴席でその何とも浅はかで奇妙な光景を、唖然と、そして湧き上がる怒りを抑えながら、ただただ見ていた。 その発言一つで、今まで無関係とされていたこの子にまでも火の粉が掛かったのだ。人殺しの子、死刑囚の子。彼女達夫婦の子として生まれたが故に、島中の人間から後ろ指刺される存在となった。 「おはよう、いい天気だね」 小学三年生の男の子の体格にしては少し低い目線に合わせ屈んで声を掛ける。目に少し掛かった前髪が視線の向く方向を読ませてくれない。これといった返事もなく、私という障害物を避けるように再び通学路を歩み始めた。 「人殺し」 ある日の夕方、無邪気な声に不釣り合いな言葉に振り向いた。眩しい夕日に目を細め、声のほうへと視線を凝らす。と、聞こえた声の主と私の、丁度間のあたりある存在に呼吸が詰まった。細く、頼りのない影を私の足元に伸ばした少年は、私と同じ方向へと視線を向けている。 人殺し。もう一度、声がした。ランドセルを背負った二人の男の子。私と少年のいる方向を見据え、まるで人の名前を呼ぶようにそう呼んだ。     
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