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ゆっくりと、頭が垂れた。表情は見えないが、小さな背中があまりに儚く見える。
「聡君、そんなことを言ってはいけない」
自分の弱さを恥じた。少年に駆け寄る事も、慰める事も出来ず、私に出来た事といえば、声の主に近寄り、小さな声で注意する事だけだ。
「だって、本当のことだもん。あいつおれのばあちゃん殺したんだもん。かあさんも、あいつを許すなっていってた」
聡君は、薬局の松田さん宅の一人息子だ。学校でもクラスの人気者で、明るく活発。まるで、かつての“彼”のような存在だ。奥さんの美知子さんの血を濃く受け継ぎ、正義感があり、自分をしっかりと持っている子だ。だから、周りの人間もそれに合わせる。それが正しいと、思ってしまう。
「…そう、なのかい」
情けない言葉を呟くように吐きながら振り返った。さっきまで、立ち止まり俯いていた少年は、いつの間にか遠く離れた場所を歩いていた。遠くからでもわかる程にゆっくりと、悲痛な足取りだ。
聡君に気を付けて帰るよう伝え、小さくなっていく背中に向かって歩き出す。今の少年の三歩は、私の一歩。あっという間に距離が縮まり追いついた。
「どうして…」
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