少年、君は

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 喉から声を絞りだし、次の言葉を発する事をやめた。この質問をかけるべきでも、ましてや答えさせるべきでもない。膝までのくたびれたズボンから延びる細く、色の悪いふくらはぎ。視線を更に下へと下げると、再びその悲惨な光景が目に焼き付いた。砂に汚れ、石粒のくい込んだ踵。覗き込み見えた小さな指は先の方が擦れて赤く血が滲んでいる。痛みに顔を顰める様子もなく今も尚、ゆっくり、引きずるように歩みを進めている。  事件が起こり、彼等夫婦が本土の刑務所へ連行された後、島の住人から少年への過酷な迫害が始まった。当時まだ六歳だった少年は、何故自分が島の人々から憎まれ、恨まれたのか、決して理解出来なかった事だろう。 「先生、聞いたかい?」 ある日の夕暮れ時、靴屋の寺坂さんが店から顔を覗かせ、店前の自販機で煙草を買っていた私に耳打ちをしてきた。どうやら少年の家に出入りする者の正体が判明したと島中で噂になっているらしい。今まで何度もその姿は目撃され、その正体の予測もされていた。 「ありぁやばいね、関わらない方がいい奴らだ。まったく…どこまで私らに迷惑をかければ気がすむんだろうな」 その正体が俗に言う極道であると知り、少しの緊張が全身をよぎった。噂はどこまでも掘り下げられ、その極道は少年に生活費を与える為にはるばる島へと足を運んでいるという情報まで耳に入った。 物心がついた時には既に、島中の人間から忌み嫌われ、憎まれ、恨まれた存在だ。現在までどうやって生きてきたのか、誰も知る術がなかった。でも少年は今現在まで生きている。その理由がまさか、極道が関係していたなんて考えもしなかった事だった。     
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