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「冷静になって? 研究所にそんな権限ないわよ。それに利田に任せたわ。彼女は優秀なケアテイカー。あなたが感情的に突っ走るより遥かに効率的よ。それでも気が済まないと主張するなら、仕方ないな、責任取ってもらおうかしら」 「解雇……ですか」 身元を証明する後見人のいない僕には、本来なら石英採掘の仕事しか選択肢がなかったのだ。金属の精錬に至る過酷な労働を、寿命尽きて死ぬ瞬間まで。 この清潔で高度な技術を享受するには鉱物を堀り、膨大な電力を使い、灼熱の焼却炉で溶かし、固めて、粉塵を撒き散らし、粉砕するという工程を光の当たらない場所で誰かがやらなければならないのだ。 「バカね。今夜一緒に食事しましょう。ご馳走するわ」 「そんな」 「大げさに考えなくていいのよ。日頃煩雑な仕事を文句言わずこなしてくれてるでしょう? いつかいつかってずっと思ってただけ。イブの予定あるんだっけ?」 「ないです」 「じゃあそのまま空けといて。私こそあなたを一人にして悪かったのよ。だから芦原は一旦帰ってホームAIにいつものよれたジーンズよりもっと、素敵な服を見立ててもらうこと。あとで招待するから。はい、交代」 室長は弱った僕にどこまでも優しかった。 透き通る美しさを復活させ戻ってきた室長に、乞い甘えたい気持ちが湧くのを感じていた。     
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