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ところがその巨大水晶にカーブが最接近したとき、開け放たれた不安定な窓枠に、黒い何者かが立っていた。 「見間違い?」 振り返る。瞬く間に小さく遠ざかるが、人影の残像がまぶたに焼き付いている。女の人? また目を凝らすととっくに小さくなったが、あれは人だ。しかも今にも飛び降りかねない、いやまさか…… 「待て!車をすぐ止めろ!」 「ここでは安全を確保できません。10km先のセーフティエリアで停車します」 「そんな先? 冗談言うな、人の命がかかってるのに! すぐだ、今すぐ止まれ!」 「あなたの安全を確保できません。セーフティエリアまで運転を続行します」 あんな窓から人形を天日干しする方がよほど不自然で、あれは人で間違いないのだ。 「融通利かないAIは淘汰されるぞ」 「あなたの安全を確保できません」 喚いたが、今の僕は運転手(ドライバー)とは名ばかりの運転される人(ドライビー)、安全な窓ガラスで隔てられた小さな空間は、AIが主導権を握っていた。 なんて無力。見せかけのハンドルをバンと叩いた。 そうだ、隠し画面のどこかに緊急停止プログラムがあるはず。慌てた人間が咄嗟に行動する方法で。 「緊急停止します。降車の際は走行チューブ周囲の安全に充分配慮するよう警告します」     
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