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装置(デバイス)はやはり単純な仕組みだった。緊急停止を告げなおかつハンドルに30kg以上の負荷をかけることで作動してくれた。 自動車専用道路を生身で逆走か。安全とは言えないが仕方ない、これが直線ルートで最も早いから。速やかにシートベルトを外し車を降りて2km近くの距離を急いで戻った。自分の意思と足で駆けるのはいつぶりだ。チューブ内のハザードランプは点滅する。外からも丸見えだし、今ごろ付近の自動車は規制で封鎖されているはず、轢かれることはまずないだろう。 「お父さん、お母さん、待って!」 よぎったのは追いかけても届かなかった記憶、だけどそんな災害孤児の自分の過去などどうでもよく、窓枠に突っ立った影が人なのか、人形を晒す悪趣味なイタズラなのかを自分の目で確認するまで気が気でない。 「できれば後者で願いたいよ」 しかし近づくにつれ水晶を模したビルの窓に立っているのは少女だとはっきりしてきた。 長いスカートの裾がビル風に煽られて揺れている。 すぐ真横を走る多層式管状道路(チューブ)の通気孔をこじ開け足をかけた。 「どうした? 大丈夫か?!」 少女はちらりとこちらに視線を寄越した。この高さから落ちれば間違いなく生きていられない。 「危ないよ、中に戻って?」     
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