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アロイスはもちろんあなた固有の名前でもない。esリアリティ研究用検体のコードネームよ。アロイスという、記号」 「理解できないよ、助けてくれよ」 ごめんね、と洩らしたケアテイカー利田は、既に全くの無表情だった。 「危うく情が感染るところだったわ。本当に行くね」 くっ…… 勝手に収縮する心臓や胃の痛みより激しく奥歯を噛みしめた。 観察室は利田が行けばロックされ、時間差で消灯するんだろう? 朝と夜が繰り返して僕はやがて飼いならされていくんだろう? それくらいは分かる。でもそれが何なのかが分からないんだ。 どういう意味で、僕とどう関わって、関わる世界は何者で、世界の中でどう生きるのか、僕が生きると何か変わるのか、僕に生きる意味はあるのか。 「あーもーそんな顔して。分かった。あと一つ教えてあげる。私の片目、義眼だから幸か不幸かesリアリティでも錯角起こさないの。これ、鉾ノ木さんには絶対に内緒にしといてね」 「どうして、そんなことを」 「だってあの女、」 ウ・ソ・ツ・キ 利田の唇が、僕にはそう見えた。
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