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そして一月の学校が半ドンだったある日広海君はカメラを持って寺に出かけた。フィルムを節約しながらの撮影だから、無闇にシャッターを切るわけにはいかないから、無闇にシャッターを押さずに目標である慰霊碑に近づいて行った。
もし怪談本の書かれていた無数の黒い手が広海君に見えていたなら、いくらなんでも広海君は近づかなかっただろう。しかし、広海君は近付いて行った。黒い手が見えなかったから、そして直後に暴風雪が起こった。広海君は無数の黒い手に掴まれ、避難することが出来ずに凍死したのだ。
もちろんそれは私の想像だ。広海君の死がただの自然現象による可能性も高い。しかしあの飢饉の犠牲者の霊が何かしら関与している可能性も捨てきれない。
ただ一人の少年が二十年以上昔に吹雪に飲み込まれ凍死した。それだけは確かな事実である。真相は少年と共に吹雪に飲み込まれたのだ。 全ては吹雪のなかに消えた過去のことだ。そう白い闇の中に飲み込まれて消えたことだ。
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