0人が本棚に入れています
本棚に追加
アヤミは1才になる以前の事も憶えているという。
1番最初の記憶は峠道です。左が山肌、右が絶壁の。
後部座席でオムツを替えていたんでしょうね。車の天井を憶えています。
そしてタエコさんの悲鳴とミウラさんの怒鳴り声。次の瞬間、崖下の海が見えました。きっと脅しで本気ではなかったと思いますが、ミウラさんは私を海へ放り出そうとしていました。
それが1番最初の記憶です。
だけど自分が何才の頃の記憶かが曖昧で、一度聞いたことがあるんです。
「こんな色の車で雨の峠道を走ったことがあるよね?」って。
タエコさん驚いてました。
まだ生後半年余りの頃の出来事だそうです。
おそらく本当の記憶でしょうね。
その後の記憶も断片的なんだとは思いますけどあるんです。
最初の記憶がそれではあまりに切ない。
聞いていいものだろうかと躊躇ったが、父母の事で憶えていることがあるなら教えて欲しいと言う私に
「いいですよ。そんなに面白い話ではありませんけど」とアヤミは笑った。
笑ったあと小さなため息をついていた。
最初のコメントを投稿しよう!