マイ・スマート・ホーム 初稿

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 この部屋、武蔵野区役所の三階奥にある「複製個体情報管理2課」は、区民から持ち込まれたスマホを預かり、適切に処理することを職務としている。旧武蔵野市が2027年に特別区に指定されたのと同時に、戸籍住民課の隣にあった倉庫を改築する形で複製個体情報管理課窓口が開設され、今年で三年目になる。  神保は慣れた手つきで預かったスマホをトレイごとベルトコンベアーの上に載せ、着席する。そしてこの数年でポピュラーな形となった「こめかみ保持型グラスディスプレイ」を装着し、コンベアーの側面についたボタンを押した。  空港の手荷物検査のように、スマホは樹脂のベルトの上を滑り、三角屋根のついたスキャン・ゲートへと吸い込まれていく。 ――『複製個体情報保護法』は今から10年前の電子テロ事件を受けて立案され、2年前に可決。今年に入ってから施行された比較的新しい法律ということになる。  東京オリンピック2020開催時に首都圏を襲った新元号最初の大規模電子テロ事件。それは『サイバー・ソーシャル・ハザード』と呼ばれ、情報化社会に大きな爪痕を遺した。  スタジアムでの競技に沸く観客のスマートフォンが悪質なプログラムによって全て乗っ取られ、そこから大量の個人情報が盗まれ、複製され、交換され、あるいは書き換えられたのだ。     
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