マイ・スマート・ホーム 初稿

3/8
前へ
/8ページ
次へ
 eコマースでの不要な購買といった身近なものもあれば、ネット配車される自動タクシーが辻待ちの客データをつかめず徘徊して交通渋滞を引き起こし、果ては病院の保有していた個人の病歴データ破壊による人命に係わる事故まで、あらゆるIT災害が発生した。  この反動もあって、ハザードからの復興とともにスマホは過剰なまでに進化し、個人情報を取り扱うアプリの集積体に留まらず、思考や行動をもトレースする「生き写し」すなわち〈複製個体〉となった。かつてのAIアシスタント――2010年代に登場したSiriやAlexaのような――は進化とともに複製個体となり、ネットワーク上でその利用者然として自由に動き回ることで、多くの利便性を人々にもたらした。『マイ・プライベート・アシスタント』通称〈マイプラ〉の誕生である。  利用者がその場にいなくても必要なことをすべて行うことができる〈マイプラ〉は、データが中心であった旧来の個人情報以上に厳重なセキュリティによる運用が求められた。そこで、かつての電子テロ事件のようなハザードに備え、複製個体の取り扱いを定めたのが『複製個体情報保護法』である。 「あの、すみません。それ、止められないんですか」  カスミはさっきスマートフォンを渡したばかりだったが、スキャン・ゲートに吸い込まれたのを見ていたたまれなくなって神保に声をかけた。だが集中している様子を見て、彼の言う確認作業というものが終わるまで待つことにした。     
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加