初稿

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『ほあーおんなじカタチがいっぱい』 その声は先ほどつくった釘より聞こえる。 『同じじゃねえ! 大量生産工業製品と一緒にするな!』 この声は釘入れに居る釘より聞こえる。 『和釘の誇りをいだきなさい』 つまり永治がつくった和釘たちが喋っている。 『くぎってなあに?』 しかも釘ごとに個性がある。 『わあこの子、自分のことが分かってないみたい』 釘の自我なんて永治にはどうでもよい。 『あの人が、私たちをつくってくれた人よ』 釘が動くわけないのに、釘たちがこちらを見ているように感じた。 『……おとうさん?』 ただの釘職人です!! そう、ただの釘職人である宗方永治は『釘の声が聞こえる』という怪奇現象に見舞われていた。動物の声が聞こえるようなものと永治は認識している。そういう映画をかつて見た、小学生の時に親と一緒に。 「……俺はそういう力に目覚めてしまったのか?」 口に出すと腹の底からゾワゾワした。とうに成人した身の上なのでファンタスティックなことには少々、いやかなり抵抗がある。しかめっ面で独り言という状況も嫌になる。今は缶コーヒー片手に休憩中である。 『ボクたちなんになるの?』 『家じゃない?』 『もっとトガったのがいいぜ』 『釘だけにー?』     
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