初稿

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ウルセー、と心の中で毒づく。離れた位置からでも釘の雑談が聞こえるのでまいってしまう。自分の聴力がいいのか。釘の声が大きいのか。それとも声が聞こえるという能力の下では距離なんて関係ないのか? 『私は床を留める釘になるつもり』 『床! 目標が低い! 時代は屋根!』 『どちらにせよ和釘を使うなんていうのは伝統建築だからどの場所で使われても誇りを持ちたまえ』 この奇妙な釘たちの声は叔父にも叔母にも聞こえない。「釘の声が聞こえる力」なんていうふざけた概念を打ち捨てるなら、この声が聞こえる原因はただひとつ。ノイローゼだ。 『未来を狭める必要はないよ。僕らにもいろんな道が待っているんだ』 『たとえば?』 『えーっと……釘バットとか』 『えっ最高じゃん!』 『釘リスペクト武器!』 少し油断していると釘たちはおっかない会話を繰り広げる。これが本当に釘の声なら危険思想を持つ存在を自らの手で生み出したことになるし、これがノイローゼ由来なら自分が普段からそう思っていることになる。釘バットは認めがたいと思っていたのに深層心理では憧れていたのか……と思うとショックが深くなる。声が聞こえる原因がどちらに転んでも最悪だ。     
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