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「叔母さん、待って!」
「あら」
キキッと音を立て自転車は急ブレーキをかける。
「タイヤ」
永治はそれだけ言ってタイヤを確認しはじめる。案の定、前輪がパンクしていた。
「なんか変だと思ってたのよ。でも永ちゃん、よく分かったわねぇ?」
「声が……」
聞こえたなんて言ったら叔母さんを心配させてしまう。
「……音が、聞こえたから」
「まあ」
タイヤがパンクする音? 耳がいいのねえ、なんて叔母が笑ってくれるのは、普段の永治が冗談なんて一切言わない真面目な男だと認識されているからである。
かくしてタイヤ交換の予定が追加された叔母を見送り永治は声の主のもとへ赴く。
「お前のせいか」
思わず釘に声をかけた。拾いあげたのは先端が少しひしゃげた和釘だ。
『あやまったよ!』
会話が成立してしまった。なおこの釘は能動的にタイヤをパンクさせたのではなく叔母さんがチャリで踏んだのだから釘は加害者意識を持つ必要はないと思う、と永治は考えたが口には出さなかった。
『あんなとこにおったー!』『もどってこーい!』と釘たちが外に落ちていた釘を呼ぶ声も聞こえる。鉄の塊のくせに仲間意識が思いのほか高い。
「なんでこんなとこに落ちているんだ」
『おじさまのポケットから落ちたんです』
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