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ふたりの出会いなど、付き合いなど、永治は一切知らない。彼に残されたのは「裏切られた」という姉に向けるには稚拙すぎる感情だけだ。幼少の頃から永治に頼りっきりだった智世は、永治になにを言うわけでもなく家を出ていった。いや、なにかは言った。「彼、投資家だから」そのひとことぐらいか。
「今日のご飯は肉じゃがでーす」
そんな姉がなぜ永治の家にいるのか。離婚したからだ。あれだけ簡単に家を捨てた姉は、家も両親も焼けたあと、のこのこと永治のもとへ帰ってきた。
(釘騒動からの喧嘩)
3
いい大人だし家出されてもぜんぜん構わない。そう思っていた永治だが、釘はしきりと姉を心配する。
……この声が自分の内心の発露(ノイローゼ)なら、自分が本気で姉を心配しているのか?
しかしもっとよく釘の話を聞いてみると、釘は智世に惚れているようだ。
……うん、ノイローゼじゃなくて自分は釘の声が聞こえる選ばれし人間なんだな。永治は「釘の声が聞こえるのは自分の能力説」を採用した。
『あの人はまるで釘の女神様だよ』
「まったくわからん」
姉が釘を作っていた時のことを思い出す。女神というべきかどうかは分からないが、火の前で金槌を振るう様は、その小さな身まるごとが芸術のようであった。
智世のことを放っておいて永治はベッドに入る。しかし騒ぐ釘がうるさくてなかなか眠れない。
そこにさらに別の釘の声が聞こえてきた。誰かの自転車のパンク!しかしこの釘は和釘ではない。自分の能力が強まっているのだろうか。
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