初稿

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初稿

「あつかったね」 誰かが言う。 「まだあつくなるぞ」 男はぶっきらぼうに呟いた。 ――和釘のつくりかたを知っているか。鉄の角材を火床(ほど)に入れ叩く。頭部のカタチが成るまで金槌で叩く。それが終わればまた加熱。そして今度は先端を尖らせるために叩く。叩く。叩く。 『いたぁい』 声が聞こえる。それにうんざりした様子で「今だけだから」と男は返す。 宗方永治(むなかた・えいじ)は若い和釘職人だ。叔父・叔母と共に小さな工房で働いている。 「どうした永治」 つぶやきに反応した叔父が声をかけてくれる。 「叔父さんには聞こえたか?」 「今言ってたこと?」 「なんと言っていた」 「今だけだから~……であってるかな?」 「『痛い』とは聞いていないか」 「なんだい、永治どっか怪我したのか」 「別に怪我はしていない」 そのまま永治は視線をそらす。叔父も作業に戻るしかない。 「やっぱり永ちゃん、元気ないわね」 「まあ、立ち直るには時間かかるだろうよ」 工房の隅で会話を交わす叔父と叔母の声など永治は気にしない。もっと気にすすべき声が聞こえるから。 『わーい新入りだ』 その声は釘より聞こえる。 『その生誕を祝おう』 永治の頭が狂っているのでなければ。     
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