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「お気持ちは察しますが、もう一度心を落ち着けて、その時の様子を話してもらえますか?」
髪の毛を短く刈り揃えた中年の刑事が莉子に言った。
「はい」
莉子はそっとひとつ深呼吸をした。
「ここには二時半ころ来ました。鍵を開けて部屋に入ると陽太が血を流して倒れていました。私はびっくりして陽太のところに駆け寄りました。陽太は少しも動かないし、息もしていないし、目を見開いたままだし、死んでいると分かりました。そう分かったとたんに、スーッと頭の中が冷たくなっていくような感じになって・・・・」
「気を失ったわけですな」
刑事が言った。
「そう思います。ほんの一瞬だったか、長い間だったかわかりません。気が付いて私は救急車を呼ぶか、警察を呼ばなければと思いました。でも、確か廊下に何人も人がいたことを思い出し、その人たちに頼んだ方がいいと思って部屋の外に出ました」
「あなたがこの部屋に来ておこなったことは、それが全てということですね?」
「そう・・・・だと思います」
莉子と刑事は陽太の部屋から出た廊下で話をしていた。刑事は髪の毛の短い男と、もう一人背の高い男もいたが、話をするのは毛の短い方だ。
テープで仕切られた廊下の向こうには野次馬が何人もいて、こちらを見ている。
「まだ検視は済んでいませんが、私が見ただけでも、彼は死んでから一時間と少ししか経っていないと分かります。あなたがここに来たのも一時間半くらい前でしたね?」
「そうです。でも、私が来た時にはもう、陽太は死んでいたんです」
莉子は訴えるように言った。
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