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「彼は頭を、何か尖ったもので何度も殴られています。後ろから一回、前から何度か。恐らく彼は後ろから一度殴られ、振り向いたところをもう一度殴られたのでしょう。抵抗できなくなったところにさらに何度か」
莉子は両耳を手で覆い、首を振った。
「失礼」
刑事はそう言って莉子の気持ちが落ち着くのを待った。待っている間、もう一度被害者の部屋の様子を思い出してみた。
殺された男はマメで綺麗好きだったらしく、部屋はよく掃除され、無駄な物もほとんど無かった。
壁にはその小さな部屋には不釣り合いなほどの大画面のテレビが掛けてある。
窓際には大きな机があり、ノートパソコンとタブレットが置いてあった。机の上にはその他にスマホや書類、筆記具がある。
机の隣には天井近くまである棚があり、ファイルの類のほかに、何かのフィギュアやミニチュアの車などこまごましたものが並んでいた。
その隣にも天井に届きそうなほどの大きな本棚があり、大小さまざまな本がぎっしり入っている。ざっと眺めてみたが、難しそうな本ばかりで、刑事にとって興味がありそうな物はなかった。
その隣には奥行きのあまりない文庫本専用の本棚があった。文庫本のほうはどうやら小説ばかりのようだった。その小さな本棚の隣には、入りきらなかった文庫本が一列、高く平積みされている。
部屋の反対側には一人用のベッド。
それで部屋はほとんど一杯で、あとは人が移動する空間が残っているくらいだった。
クローゼット中にはいくつもの服が吊るされ、下には半透明のプラスチックケースが置かれている。その中も着るものだった。
トイレも風呂場もキッチンも綺麗にしてあり、手入れは行き届いていた。特にキッチンはめったに使うことがないらしく、簡単な調理器具と食器があるくらいだった。
被害者の頭の傷は尖ったもので殴られたとはいえ、鋭利なものではなく、机の角で叩かれたような傷に見えた。
ぱっと見、そのような凶器は部屋の中に見つけられなかった。
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