プロローグ

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この世は、いつも人に優しくない。だけど、それを認識さえしていれば、特に何も思うことはない。 これは齢17にして松田智が所持する何とも悲しい人生観である。 例えば、彼が毎日勉学にいそしむこの2年E組の教室で、彼から見て一番遠くの席に座る遠山麻美。彼女は少し昔の言い方をするならばこの学校のマドンナ的存在である。 男子からの人気はもちろんのこと、同性の友達も多い。学業も優秀だしスポーツも万能。中学の頃はテニスで全国大会にも出たという話まである。 そんな彼女は智と関わることはこれから一切ないだろう。なぜか。それは彼女と彼の住んでいる世界があまりにも違いすぎるから。そういうものだ。 これは別に世界が智に優しくないからではない。 そういうものなのだ。 そう思えば、彼が彼女に対して何かを思うとか感じるということは一切ない。確かに美人だしすごい人物だという認識は智にもあるけれど、だからと言って近づこうとか関わりを持とうとかそういう考えは全くと言っていいほど生じることはない。 智は別に自分を卑下しているわけではない。確かに自分がリア充と言われれば全く違うと言い切れるし、中学時代に陰で呼ばれていたあだ名はストレートに「冴えないメガネ」だったという事実はあるにはあるけれど、だからと言って彼は自分の事が嫌いなわけではなかった。 繰り返しになるが「住む世界が違う」 彼らが全く交わりあわない理由はその一点に尽きると言っていいだろう。 だから、松田智と遠山麻美のそれぞれの人生にこれから先、交点も接点も生じることなどあるはずがなかった。 それが双方思わぬ形で覆されることになったのは、彼らが高校2年生に進級して1カ月が過ぎようとするある日のことだった。
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