第1章

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5時間目というのは魔の時間である。理由は言わずもがな昼食後であるからだ。 満腹感は睡魔の働きを助長する。たとえ金欠の為に智が昼に食べたのが、学食の200円の素うどん一杯だけだったとしても、やはりこの時間帯というのは必ず奴は生徒たちを睡眠の世界へと誘い続ける。 しかも、運悪く本日の5時間目は数学だった。智のクラスの数学担当教師は落ち着いた物腰の中年男性である。彼の授業は良く言えば穏やか、悪く言えばまったくもって刺激のないもので、この5時間目に受講するにはあまりにも強敵といっていいものだった。 案の定、授業が始まって15分ほどすると、睡魔が智の脳裏にちらつきはじめる。そのまま寝てしまっても別に良いのだが智は自分のキャラ的に居眠りをすることができないと勝手に思っている性質らしく、こういうときは決まって自分の瞼の皮を伸ばすことで事なきをえていた。 そして、今日も今日とて彼がメガネをずらして自分の瞼に指をかけた。その時だった。 (あぁ…。授業だる…) 不意に智の耳にそんな声が聞こえた。 (つーか、この教師の声、マジで抑揚なさすぎなんだよね。もうちょっとこう生徒を眠らせない工夫とかできないものなの?) (なんの声だ?) 明らかに自分のものではないその声につられるように彼は心の中でポツリとつぶやいた。すると先ほどと同じ声で (…何?今の声?) どこか困惑したような言葉が再び脳内に鳴り響いた。 この時点で彼は今自分に何が起きているのかをだいたい把握する。あまりにもおかしな不可解な出来事だけど、これが夢ではない限り、そうとしか考えられない。
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