第2章

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準備運動が終わり1試合目が始まる。先に守備につく智のクラスの投手は、誰が言い始めるでもなく自然と透に任されていた。 試合前の打ち合わせで、野球経験があるのが智だけであるということが判明すると、智はすぐにキャッチャーに回された。キャッチャーが何度もボールを後ろにそらすわけにもいかないし、そう言う意味では智が一番適任ではないかという透の進言だった。 別に強要しているわけではないのだが、彼が言ったことは必ずまかり通る雰囲気がこのクラスにはあった。智もそれに対して特に何か言うでもなく、言われるがままにキャッチャー用の防具を全身につけていた。 「あんまりいい球は投げられないかもしれないけど」 試合前のあいさつがすみ、マウンド上で打ち合わせをするため智が歩み寄ると、透はそう言いながら笑みを浮かべる。 「まあ、ただの球技大会なんだし、そこまで力を入れる必要もないと思うよ」 智としては透の肩の力を抜くために発した言葉だった。しかし、透ははっきりと首を横に振る。 「まあでも、やるからには勝とうよ」 思わず智が目を逸らしたくなるほどの爽やかな笑顔だった。こういうことを何の嫌味もなく言ってしまえるところが彼の人望の厚さにつながっているのだろうなと、智は思った。 打ち合わせを終え、智が自分のポジションに戻る。その際にクラスメイトが応援している1塁側のベンチの後ろの方に何となく目をやると、自分たちの試合を終えたバレーボール出場者の生徒たちがゾロゾロと集まってきていた。そして、当然のようにその中には麻美がいた。 ふと、麻美と智の視線がぶつかる。 麻美の目は何か言いたげのように智には見えた。しかし、この時に都合よく交信が始まるということはもちろんなく、彼女が目で何を訴えようとしているのか、この時の智には分からなかった。
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