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「松田君はさ、そういう話ないの?」
「そういう話?」
「ほら、あの文芸部の牧田さんだっけ?放課後はいつも二人きりなんでしょ?」
「二人きりだけど、ほとんど会話ないよ」
「でも、可愛いよね彼女」
可愛い、という言葉に一瞬智の動きが止まる。そういう目で理沙の事を考えたことがそれまでに一度もなかったからだ。
しかし、改めて考えて見ると、三つ編みにメガネという地味な外装をしているけど、もともとは可愛いという部類に入るのかもしれないと智は思った。
「まぁ、もしそうだとしたら余計に何もないよ。可愛い女の子と僕がそんな青春っぽい青春を送れるわけないだろ?」
智としては、特に投げやりになっているという自覚はなかった。事実は事実として口にしているだけだし、伸二も智の心中は何となく読めていたので、それ以上は特に何も言わなかった。
「あれぇ?そこにいるのは松田君と新山君?」
そんなとき、彼らの背後からそんな間延びしたような声が聞こえてきた。
声をかけられた2人はおそるおそるというように、ゆっくりと同時に振り向く。
先ほどまで少ししか開いていなかった扉の隙間を全開にしてそこから顔を出したのは、香織だった。
脇にバレーボールを抱えながら立っているその出で立ちはいつもと変わらず堂々としている。それに比べて智と伸二はいかにもおっかなびっくりといった感じである。
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