第2章

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「ここでお弁当食べてたんだ」目を丸くして二人の手元を覗き込む香織。 「あ、ああ、まあ」頬をかきながら答える智。 「二人仲いいよね。いっつも一緒にいるし」満面の笑みを浮かべる香織。 「ま、まあ、それほどでも」目をそらせながら頭を掻く伸二。まさに対照的な2人と1人だった。 「あ、そういえばさ、松田君」 「え?」 まさかの指名に智は思わず肩を縮こませる。そんな智の様子など意にも介さない様子で香織は言葉を続ける。 「理沙と同じ部活なんだよね?」 その名前を聞いて、すぐに頭の中に顔が浮かんでこなかったのは、今のこの状況にすっかり心理的に追い詰められているということと、彼女の下の名前を意識したことがなかったからだった。 「ああ…牧田さん?」 「そうそう、牧田理沙。あの娘、私の従妹なんだ」 「…はい?」 「いとこだよ、いとこ。私に似て可愛いでしょ?」 あまりにもあっさりと告げられたその事実を智はすぐに飲み込むことができなかった。まあ、従姉妹ならそこまで似ていなくても違和感はないけれど、それにしたって香織と理沙は智の認識では正反対の二人だったからだ。 「仲良くしてやってね、あの娘大人しくてさ、あんまり友だちいないみたいなんだよね、同じ学年に」 「はぁ…」 「それじゃ。あ、新山君このあとも試合頑張ろうね」 伸二が「うん」と返事をする前に、香織はその場を後にし、友人が待つ方に駆け寄って行く。 「えー何喋ってたの~?」「べつに~」そんなやり取りが聞こえてくる。半笑いでこちらを見てくる彼女たちの様子を見るに、おそらく香織が智たちに話しかけるということは彼女らにとってちょっとした事件だったのだろう。 「…それじゃあ、僕行くよ。松田君も午後の試合頑張って」 「ああ…」 別にからかわれたり悪口を言われたりしたわけではないのに、彼らの間に漂っているのは敗北感のようなものだった。 ちょっと肩を落としながら歩いていく伸二の小さな背中を見送りながら、智も「よっこいしょ」と小さな声で親父臭いことを口にしながら立ち上がった。
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